ある朝の風景〜by 蒋敬〜




 陶宗旺の朝は早い。

 彼の鍬を振るう音と小鳥のさえずりが、黄門山の清々しい空気に響き渡っている。

 うん、今日もいい一日になりそうですね。


 「おはよう、蒋敬。今朝の天気も上々だな」

 髪を下ろした、寝巻き姿の馬麟が隣へやってきた。

 私も彼と、外の畑で頑張っている陶宗旺に向けて朝の挨拶をする。


 「おはようございます、馬麟。陶宗旺もー!おはようございますー!」

 作業に没頭していた彼が、こちらに気付いて小走りで駆け寄ってきた。

 「おはようさん〜、お二人さん。今日はね、いい人参が取れてるんだよ〜」

 すきっ歯でにっこり笑う。

 残念ながら、顔の作りには恵まれなかった彼だけど…。

 その素朴な笑顔は、とても温かくて好ましいものだと思います。


 「あと、きのこ〜。今朝の朝ごはんは、きのこ汁なんかいいなあ…」

 陶宗旺がうっとりした顔をする。

 「では、そうしましょうか。馬麟、あのおバカを起こしてきていただけます?」

 馬麟が細い眉を跳ね上げる。

 爬虫類を思わせるシャープな顔の彼がこれをやると、なかなかの迫力があるんですよね。


 「何でいつも俺ばかり…。こういうのは当番制にすべきだろう」

 「当番も何もないでしょう。陶宗旺は畑仕事があるし、私は朝食の準備があるんです。
  手の空いている貴方がやるのが道理です」

 「つってもなあ…」

 「ほら、我々は忙しいんですよ。さっさと起こしに行って下さい!」

 私が腕を組んで怒れば、馬麟が仕方なさそうに頭をかく。

 面倒だ、全くもって面倒だとぶつくさ言いながら、馬麟の後姿が廊下の角へ消えていった。

 …嫌がりながらも、仕事はきちんとやってくれる男ですからね。

 こういう友人に恵まれているのは、本当にありがたいことです。


 「さて、と。人参ときのこと…お肉がないとアレがうるさいから、部下に捌かせて…」

 「あと、大根とかお芋〜?待っててね、掘りたてを調理場に持ってくからね〜。
  くふふふ、今日は朝からきのこ汁〜♪」

 食べることの大好きな陶宗旺は、早くもご機嫌だ。

 それだけ喜んでもらえると、大して料理が得意ではない(まあ、下手でもないのが幸いですが…)
 私も、作りがいってものがありますね。

 いつも美味しい美味しいと言って食べていただけると、日ごろの苦労が報われるってもんです。

 …人の分まで肉漁って、いい年こいて野菜もロクに食べない誰かさんには、本当に見習って欲しいですよ。


 「オラ、トリ頭ア!!いいかげん起きねえか!!」

 馬麟の怒声が、遠くから聞こえた。

 『あの禁句』を言ったからには、アレが起きるのもすぐでしょう。

 「テメエーー!!トリ頭言うなつってんだろがーー!!」

 ほら、案の定。

 静かな朝は、いつもどおりのにぎやかな朝に変わっていく。

 陶宗旺と顔を見合わせて苦笑してから、私は袖まくりをしながら調理場へ歩き出した。


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